トランクスから告げられた、あんたからの最後の伝言。
それは最初で最後の、一番あんたらしくなかった台詞だった。
うれしくないわけじゃない。
あんたが本当は凄く素直な男だってのはだれよりも一番私が知ってたことだから、
違和感は(全くとまではいかないけど)感じなかった。
だけどさ、あんたが自分の命捨ててまでトランクスを助けたなんて、
親子だから、
なんの不思議もないんだけど、
あのね、ベジータ、
私あの時いままでで一番嫌な予感したの。
何度も死にそうになって、今回なんてそれに比べれば命の危険なんてなかっけど。
でもね、凄く嫌な予感がしたの。
わけがわかんない嫌悪感みたいなのが沸き上がってきて
体中に気持ち悪さが纏わり付いてるような、絶望的なデジャブみたいなのが。
こんなとこで女の勘が働かなくたっていいのにさ。
本当に当たっちゃうんだからみっともないよね、私。
それに私ともあろう女が、もっとこうすればよかったああすればよかったって後悔するなんてさ。
あんた以上に間抜けよね。
あんたは後悔しないで生きて、息子助けて死んだのに、
私は、
アンタがなにを考えて、
何をしたくて、
何を心から望んでいたのか気付けなかっ た。
せめて気付けたとして、私では叶えられないあの人への渇望を、
どうしようも出来ずに見てるしかなかったに違いない。
強さを求めて、何を捨ててまでそれを求めてた事、私は理解してたつもりになってた。
ならせめてって、私はあんたに、少しでも休める場所を与えられればいいって思った。
でも女の私は、無意識のうちにあんたが私と息子と家庭を愛してくれる事を願ってしまったの。
いつしかそれは「父親なんだから当たり前」という意識になってしまって。
押し付けちゃいけないのに。
だけどそんな願望をあんたは気付いて、らしくない努力をしてくれた。
父親らしい態度という形で。
ただしそれは、あの人への渇望を紛らわす手段にしかならないのを分かっていながら・・・。
こうして結局私は、
あんたを苦しませてしまった。
あんたの足枷として、”余計なお世話”を散々掛けて、
あなたを死なせてしまった。
誰を責めればいい?
未知なる敵を?
勝手なあんたを?
気絶してた孫くんを?
何も出来なかったピッコロを、
子供達を、
それとも惑わせた私自身を?
あたったってあんたは帰ってこない。
何日も泣いてそんな現実にようやく気付いた。
そんな時に、あんたからの最後の伝言を聞いた。
「ブルマを、ママを大切にしろよ。」
って言葉を。
最後の最後に、そんなこと私に伝えて死んだという事実。
もう止まったはずの涙が、再び沸き上がる。
悲しみと、不謹慎だけど愛されていたという喜びの涙。
・・・孫くんと私が比べられないものだって言い聞かせてた。
本能が求める相手は血肉沸き上がる、たった一人の滅んだ星の同朋だってことを。
私に求めれているのは同朋に立ち向かう為の訓練と休息の場でしかない。
金も頭脳も女も偶然私がもっていただけで、あいつにとって子供はおまけのようなもんにすぎなかった。
おできみたいな腫れ物扱いして。
だけど、
だけど、始まりは形だけのものだったかもしれないけど、
最後にあんたは、
一瞬でも私のことだけを想ってくれた。
滅亡した星の同朋と戦闘本能を満たす為ではなく、
胃星人の妻と息子を救おうとして
・・・自分の命を投げ打った。
だから、その事実だけで、
もう充分だった。
最後に、
一番ましな愛の言葉を遺してくのが、
憎いけど。
あんたらしくなくて、なによりあんたらしい伝言、
私は心に留めて生きてく。
命を掛けて守ってくれたあんたのように、
託された重さを息子がいつか果たせるように、
その日まで、
私は必ず生き抜から。
それが私からあなたへの、最後の伝言。