ただっ広い城内の一室で、ジンはばったりと寝そべった。
床には柔らかい毛の絨毯が敷かれ、部屋も申し分無く温かい。
程なくして賑やかな声が聞こえて、身長の二倍はあるような扉がバタンと勢いよく開いた。
GREED ILAND
「ジンってば早速寝てんじゃない!せっかくみんなでお祝いしようっていきごんでんのにさ~。」
エレナが呆れつつジンの傍にしゃがみ込むと、イータもクスリと笑ってエレナの後ろからジンを見下ろす。
「せっかくカイトくんがおいしい料理作ったのにさ、頼んだ自分が寝ちゃうなんてジンってばひどい師匠ね。」
双子の応酬はいつも賑やかで、集まった仲間達を和ませる。
もともと陽気な連中が多いからというのもジンの人格からくるものなのだろうが、嫌なムードになることはほとんどない。
案の定ドゥーンも頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。
「こいつ寝てるじゃねーか!さっそく飲みたいと思ってたのによ。日ごろの愚痴を延々と聞かせてやろうと楽しみにしてたのに。」
大袈裟にジダンダを踏む仕種をして、行儀良く立っていたリストに命令する。
「こいつ蹴り飛ばしていますぐ起こせ!たっぷりしぼってやんだからな。」
そんなドゥーンの言うことを真に受けるリストではないから、こちらも呆れた顔であっさり答える。
「なんで僕が起こすんです?こってり説教したいドゥーンさんがやればいいでしょう。それに頼みたければ弟子を使えばいいじゃないですか。」
「おっ、そーか、それもそうだな!」
拳で掌をぽんと叩きリストの返事にすぐに乗ったドゥーンは、すぐさま扉を押し顔だけ廊下の彼方へ向けると大きな声で叫んだ。
「カイトーーー!いますぐこっちこーーーい!」
「・・・。」
トドゥーンの間抜けな後ろ姿をみつつリストは少し溜息を付いた。
今のやり取りをジンのそばで聞いていたエレナとイータもリストの心持ちがわかるから静かに目配せをする。
「んもー、調子いいんだから~。」
「カイトくんかわいそ~。」
「そうよね~、ジンの弟子だからってドゥーンにまで気安くこき使われて。」
「カイトくんいつも文句言わないで色々やってくれてるのに、パシリみたいにしたら駄目よね。」
「そうそう、あんなにいい子なのに。せめて私たちで可愛がってあげないとね、無神経な男たちの代わりにv」
それって僕も入ってるんですかと聞きそびれたリストだったが、なんとなく聞かない方がいいという事を無言のプレッシャーで感じ取ると、再度溜息をついたのだった。
うらみますよ、ドゥーンさん・・・
そんなリストの心知らず、ドゥーンは早く来いと廊下奥にある厨房に怒鳴り散らしている。
決していらついていたりはしていないのだが、なまじ声が大きくおしゃべりな分怒鳴っているようにも聞こえてしまう。
本人は無自覚だが仲間もそれをわかっているから敢えて注意したりはしない。
更に言えばドゥーンの大声は彼らの習慣のようなものになっていたから、カイトもまた”ドゥーンさん騒いでるな”という程度で受け止めるようになっていた。
だが”師匠の仲間”、性格上たとえ冗談であれそういうものを無視できないカイトは手掛け途中の料理を手早く仕上げ盛り付けると、すべての皿を持ち上げ足早にドゥーン達の部屋へ急ぐ。
運ぶ動作は手慣れたもので、多くの皿を絶妙なバランスで部屋へと運んで行く。
―かちゃっ
カイトの気配を感じ、気を効かせてエレナが中からドアを開ると、リストとイータもそれに習ってカイトから皿を受け取り床へと降ろす。
その気遣いにすいませんと軽く頭を下げながら、カイトは先刻から自分の名前を呼んでいたドゥーンの方へ顔を向けると、早速用件を訪ねた。
「ドゥーンさん、あの、なんの用っすか?」
とりとめて呼ばれる理由が思い浮かばない。
まぁいつものようにジンさんの事だろうというのはエレナさんやイータさんの表情で容易に想像出来たのが。
「ジンを起こしてくれ!コイツにゃあしっかり聞いてもらいたいことが山ほどあるんだからな。」
…案の定些細な注文である。
一瞬言葉の意味を理解しあぐねたカイトを横目に、流石にこれには自分が吹っかけた責任と双子の厳しい視線を感じたのか、リストはカイトへの向き直り、
「いや、カイトさんなんでもないんですよ。私が吹っかけたことですし、またドゥーンさんの我侭ですから。」
と咄嗟にフォローを入れた。
しかしドゥーンは怪訝な顔でリストを見つめ返す。
「しかしよ、ここまで呼んじまったんだから弟子に起こしてもらわないとなぁ。」
「おい。」
「あ?リスト、俺に喧嘩売る気か?」
「いえ、そんな気は・・・。」
「おいっ!」
強い口調に思わず二人が振り向いた先には。
お目覚めのジンがチキンの丸焼きを口に頬張ってあぐらを掻いていたではないか!
「あ、ジンさん、起きてたんですか?」
弟子がそう声をかけると、師匠も周りを見渡しながら答える。
「あぁ、オメ-が料理終わるまで寝てようと思ったんだけどよ、コイツらがうっさくて起きちまったんだぜ。しかもドゥ-ンなんか勝手にオレの弟子パシリに使いやがってよ!」
そこまで言い放つと、どうやらジンの目覚めに気付いていたらしい双子は我慢出来ずに笑い出した。
釣られてリストも笑い出し・・・
気がつけば部屋は大爆笑の渦に巻き込まれていた。
あまりの腹のよじれに苦しくなるまで。
「全くジンったら。私達がわざとらしく側で文句言ってたの、やっぱりばっちり聞いてたわね。」
「簡単な誘導に引っかかるんだから、ジンってば。」
・・・これはその後の女たちの後日談。
「なんだかんだいって結局カイトくんにはジンも甘いのよねv」
[おしまい]