流れる季節に見を任せ、うつろいゆく景色の色を心の思い出に焼き付ける。
ただそれだけの作業がなんと楽しいものか。
戦乱のさなか、ほんの少し視線を移せばなにごともないように微々たる変化をとげる木々。
・・・その中にはきっとあの木もあって-
一瞬よぎるあの人との思い出。
やさしく手を引き、小鳥の巣を見せてくれたり、
時には急かして夕刻に間に合うようにと美しい日没の絶景をプレゼントしてくれたり...。
そして約束の指輪。
必ず戻って来ると、なかば契りの予約するように、
彼は私に銀の指輪を贈った。
だがその”予約”が”本契約”になることは永久に無くなってしまった。
『あのような野蛮な種族など!』
『蛮属の味方をするとは呆れたものだ』
地球人を詰る声。
それは愛した人を詰られているものと同様に、心引き裂かれるものだった。
静的な白い光を放つ星の女王が愛したのは温かい血を持った青き惑星の男。
御伽噺になっていたそれは、私にはとってつい最近の事であるのに。
眠りについている間、そして目覚めたその時、
月と地球の民は自ら争いを初めてしまった。
思いとはうらはらに戦乱は激化し、記憶に残る深緑の多くを焼き払っていった。
『地球人は黒歴史によって汚染された土地を活けるものへ変え、さらに文明を退化と言う停滞へ自ら導く事で、月と同じように2000 年もの間平和を維持してきたのです。それは我らと同じ”高尚”な民であるからこそ成せたことではないのですか?なにより地球の民は我らの先祖の兄弟であろう人々を祖先にもつ血を分けた隣人なのですよ。』
『それを野蛮と表すとは、どちらにその言葉が相応しいかよくよく考えてみることですね。』
これからはムーンレイスと地球人が共に手を取り合い、
このような思いをなんびとにもさせまいと願いながら生きてゆきたい。
ようやく左手にはめることを許された銀の指輪。
あなたは今、喜んでくれたでしょうか?
「もしフィル少佐がディアナ様にそっくりな”蛮族”が女王だと知ったらどうするおつもりでしょうね?」
キエルは可笑しそうに自らを比喩しながら、
傍のムーンレイスの親衛隊隊長に問う。
答えなど求めてはいない。
かつての女王以上の働き振り。
”蛮族”などと表した地球人をそれとは知らずフィルが崇拝する愚かさ滑稽さ、住む星に甲乙などないことをまざまざ証明しているようなものだった。
「その時は私も共犯者ですよ、キエル嬢。勿論ミランもですが。」
彼は・・・ ハリーは答える。
敬愛する女王と瓜二つの少女に。
付け加えれば、愛する女でもある地球人の娘に。
「貴女は美しさと優雅さを、そしてそれに劣らぬ気品を身につけておいでだ。”野蛮”とおっしゃる人間の方が”蛮族”だと解釈してよろしいかと、”ディアナ”様。」
ふふふ!
笑いが止まらず、そのままハリーの懐へ転がり込むキエル。
それを困り顔ながら、逆に楽しむように抱きすくめるハリー。
ひそかに育まれる”許されぬ”恋。
先に見える物は先の女王と同じ悲劇か?
それとも別の結末か?
・・・行く手は困難であろうとも、離れる事がないように。
私のような思いを、魂の片割れが、堅実な一番の忠臣が、味わうことなどないように。
そして、ウィル・ゲイム。
私が愛したあなたが、私を微笑んで天国から見守ってくれていますように。