嵐のハジマリ
激しい強風に呼吸が乱れ
降り出した雨に打ち付けられ濡れる身体・・・
そんな嵐の前触れは、
決まっていつも”雷”
The man like the thunderboult
小さい頃雷が恐かった。
心臓に響くような轟音はある日突然鼓膜をつんざいていく。
嵐を呼ぶ不穏な大雨の前兆は年月がたっても気味が悪くて。
気まぐれですぐに晴れることはあっても、大抵は嵐がくる。
そんな時は外で遊べないし、勿論予定していたデートだって筋書き通りにはいかない。
おまけに独特の湿気が体中に纏わり付いて、
せっかくキメたパーマもぐちゃぐちゃになっちゃうのが何より耐えらなかった。
憎い天候をしかめっつらでにらんでも晴れる訳でもないし、
こんな時は仕方なくベットに転がって大人しく作り掛けの部品を手でもてあそんだりする。
・・・光るイカズチ、何ボルトもの強烈な電気ショックがあの中に通っているのだろうか?
嵐といえば雨と風ばかりに気を捕われがちだけど、やっぱり何より恐いのは雷だと思う。
打たれれば死ぬだろうし、下手すればいくえもの光の束は火となり狙ったモノを焼き尽くす。
だから人は古来から雷を畏れ、そして得体の知れない力と神々しさに魅入られて来た。
下手すればうっとおしいただの強い雨と風に、嵐の恐怖と興奮を加えるのは何よりイカズチ・・・。
巡り出す思考は途切れることがない。
ほつれた糸をほぐすように、思いったけをうつうつと頭に綴っていく。
嵐のような人間なんているんだろうか?
気まぐれに現れて散々弄んで消えてく人間が。
ただ濡れるだけなら、
ただ呼吸を乱されるだけなら、
誰を相手にしたっておんなじだと思う。
そこから更に痺れる電気ショックと、
私を虜にするほどの魅入られた光を放つ雷をも合わせ持った嵐の男に、
私はいつか出会えるのだろうか?
そんな事を考えてた頃から十年。
今日三度目のイサカイをベジータとやってから私は溜息をついた。
なんだろ、なんで私今日こんなアイツを言い負かせないわけ?!
それになんでこんなにいちいちむきに反応してんだろ?
・・・こんなヤツ受け流すのはお手のもんなのに。
なんで私って真に受けてるワケ?!
涙が出て来る。
自分でも訳が分からない。
悔しいけど泣く程じゃない。
だからって構って欲しいなんて思ってるわけでもない。
だいたいあいつになんか妙な期待なんてこれっぽっちもしてないし!
でもなんか涙腺が緩んでる。
ついに私も気がおかしくなったのかしら。
ふん!絶対帰って来たらなにも食わせてやらないわ。
女を泣かせた罰よ!
そう考えて椅子から腰を上げ、なにも考えず窓の外を見るまで数秒。
濡れた目のせいか雨が降っているように見える。
でも轟音がなった瞬間、それが気のせいじゃない事にやっと気付いた。
「・・・雷か。」
そう呟いて窓を空ける。
自分が濡れるのもお構い無しで、ただ雷が見たかった。
見ていたかった。
眩しい閃光。
目を背けないでそれを見つめて。
やがて私は、
ようやくそれが恐いものじゃなくって
本当はどうしようもなく心引かれてしまうものだと思い知る。
かつて、雷に魅入られた人々のように。
「・・・おい。なにを泣いてやがる。」
・・・本当はずっと、雷に打たれたいって思ってた。
あんたにどこか抱いてた畏怖の裏の本心に、
私はいままで気付かなかった。
その”雷”に、逃げることすら出来ずにとてつもなく魅入られてたこと。
私に体の奥に、痺れと焼け付くような得体の知れない感情を植え付けたのは、
“雷”をもった嵐、ベジータであることを。
そんな事実を今一つ発見して、
現実の、
その気のせいじゃないあいつの声に、弾む。
「なんで私が泣いてるってわかったの?」
さっきまで考えていたありったけのイジワルな思案が吹きとぶ。
情けないくらいあっけなく。
だから最後のありったけの抵抗で、振り返ってやらない。
くやしいほどあんたにイッちゃってるから。
「・・・さあな。それよりさっさと中に入ったらどうだ。
おまえに風邪でもひかれて重力室のメンテナンスをこれ以上長びかされては困るからな。」
「入ってやってもいいけど、その代わり条件があるわ。」
ここまで言ってようやくあいつに振り向いてやる。
絶対困った顔すんのわかってる。
でも私はあんたにしょうもなく魅入られちゃったから、
嵐が”晴れ”るまで責任を取って貰わないとね。
「こんなにいい女が泣いてんのよ?
慰めてくれるんだったら・・・入ってやってもいいわ。」
挑発めいた言葉。
それはあんたという”嵐”を呼ぶ些細な引き金。
この後に起こる嵐のような出来事に、私はもう夢中なのは
まだ教えてやんないけどね。
だからベジータ、
私の心を、体を、どうか
濡らして、窒息させて。
そして、
痺れるように、焼き尽くすように
―愛して。