人はなんと運命の輪に狂わされる愚かな生き物なのだろうか
ふとそんな哲学的なことを言って、我ながら笑ってしまった。
常々私なんかには似合わない台詞。
だって運命の輪は自らで狂わせるもの。
好き勝手に私自身が好んで
狂わせているのだから・・・
心変わりは誰のせい?
いつもの通りヤムチャと午前中に喧嘩して、夕食前に仲直りする。
それがいつしか生活の習慣になってこのカプセルコーポ暗黙事項に加わる。
パパもママも多少困った顔をしてるけど、娘は娘、
立派に(同居はしてるけど)独り立ちしているつもり。
ヤムチャとの事に口出しはされたくないし、ましてそんなこと誰もしないけど。
だけど、
べジータという戦闘馬鹿が居候を始めたあの日から
微妙にこのカプセルコーポの雰囲気が変わった気がする。
パパはなにやらあの馬鹿に付き合って重力室の開発なんかしてるし
ママはママで妙に「べジータちゃん」なんていって気に入ってる様子。
今まで多少なりとも娘の私に注がれていた視線が、部外者の、
それも殺人鬼なんかへと移ってくのはどうも正直腹が立った。
あんな男のどこが良い訳?
確かにからかい買いはあるし、体つきは魅力的だけど・・・
それ以外はどうでもいいなんていう面白みもない男、ほっときゃいいのに。
だけどあの(少し抜けてるけど)パパとママが、あの男にだけは
いつものような媚びた態度を見せることなく、実に誠実に接してる。
それが妙に私のナニかを刺激した。
ふ~ん・・・
おもしろいじゃない?
なんでパパもママもあんな男気に入ってるのか
ちょっと探ってみたくなったわ。
こうして初めてべジータという人間性に興味を抱いたその瞬間から
きっと私は自ら進むべき道を敢えて踏み外したに違いない。
ただただその男の一挙一動に目をくれているうちに
いつもヤムチャといつも繰り広げる”生活の習慣”が疎かになり
そんな微かな変化もヤムチャは無意識のうちに気付いたのだろうか
浮気を重ねた。
「なんど嘘をいったら止めるわけ?」
逆上して散々泣いて、それを抱くという作業で私に許しを請うヤムチャ。
それはいつもの”習慣”だったはずなのに・・・
なぜか最近はひどく虚しくなる
いつしか抱くようになった心の奥底の変な気持ち
”習慣”が習慣に感じられなくなった時から、
もう私はこのままヤムチャと続けることが出来ないとどこかで察していたに違いない・・・
気が付けば
興味本位に向けられていたべジータという男への視線に
熱がこもっているということを私は自ら気が付いてしまった―
「なんか用か。」
ぶっきらぼうに突っかかる男の声に
ふと顔を上げる私。
気付いたらどうもコイツの服を子供みたいに掴んでいた。
「別にあんたなんかに用はないけど・・・
そうね、あんたのいう超質ラバースーツの改良してやろうかと思ってさ。
このブルマお嬢様がじきじきに見てあげましょうっていうんだから
素直にいうこと聞いたら?」
「フン、勝手にしろ。」
他愛のないやり取りがしょうもなく楽しくて
決して今まで見せなかった”隙”というものが滲み出てしまって
いけないと思いつつ
私はすっかり調子が狂ってしまった。
ヤムチャの前よりも、この男の前にいるほうが心安らぐ・・・
安らぐ?
ふいに湧き上がった言葉。
慌てて否定しようとして、
私の中の何かがその作業と辞めさせた
なんであんな男というと安らぐわけ?
驚くほど冷静な誰かがそう自問する
好きな男はヤムチャでしょ?
ならなんでヤムチャよりも・・・なんて思うわけ?
別の私がこの沸いた感情を否定しようとするが、
その疑惑はついに消えることなく肥大化していった。
そしてそれから数日して―
私は
べジータに抱かれた
抱かれても
無愛想なアイツがやさしくしてくれるはずもなく
平気で私を置いていく
でももう私はアイツに囚われていて
哀しい位に利用され始めている
夜な夜なの慰み相手でもいいから
せめて私を見てと
いつしか私だけしか愛せないように
いつしか私だけしか抱けないように
そしてそれが現実になり
子供が出来て
とんでもない親ばかに成り果てて・・・
「あんたさ、運命って信じる?」
「お前は馬鹿か?そんなくだらんことをはなす暇があったら飯でも作れ。」
「なによ~、答えないと絶対作ってあげないんだから。アンタの分だけは。」
「ふざけるな!コッチは腹減ってんだぞ!!」
「あら~、パパ怖いわねトランクス~。だから二人で食べましょうね~♪」
「マ、ママ・・・」
「おっ、おい待てブルマっっっ!!!」
そう、運命の輪は自らで狂わせるもの。
大盤狂わせでホームランが出ることもあるんだから、
ね、べジータ?