今宵#斉藤×時尾

夏、月明かりの中、吊られた蚊帳の中ちりんと風鈴が音を立てた。暗闇に満月が浮かび、眠る女をぼんやりと照らす。筵の香りがする空間の中一見彼女はおだやかに眠っているようにもみえるが、この季節特有の蒸し暑く空気に含まれた湿気が体に纏わりつき、寝苦しくさせていた。

「ん・・・。」

寝返りをうち、おもむろに回した手が傍に寝ている男の顔に触れる。珍しく今日は夫が非番になったらしく、こうして家族三人で勉を挟み川の字で寝ているのだが、子供が寝静まったのを見計らったかのように男は徐に置きだし、ひっそりと妻の横へと体を横たえていたのだ。

―もう何週間も抱いていない。ようやく出来た暇を惜しむのは馬鹿馬鹿しい。大体またいつ余暇ができるのかもわからないのだ。

勿論久しぶりに息子と夕餉を共にできたのはうれしかった。勉はにこやな顔で留守にしていた間の出来事を堰切ったように話し出し、こちらが逆に話を終わらせるのに苦労した位だったほど。だがそうやって父親の顔をしながら、早く宵がくればよいとも考えていたのは男の下心か。

眠っている時尾の帯を緩める。ややゆとりを持ち始めた襟の隙間を手で開き、そのままそこへ顔を埋めた。香のいい匂いと汗ばんだ妻の匂いが己の嗅覚を刺激すると、急激に生理的な欲求が掻き乱された。

思わず強引に袂を広げ、胸の頂を露にさせると堪らずにそれを吸った。舌で舐め、這わせ、転がし、余った片手でもう一方の胸を掬う。確かめるようにその柔らかさをしつこく堪能していると、ようやくそんな俺に気付いたのか時尾は目を覚ました。

―おまえさま、何を・・・

眠気で感覚がまだ戻ってはいない時尾は一瞬なにをされているのか気がつかなかったらしい。纏わり付く胸周りの違和感が俺だということに気付くとようやく声を低くした。

―勉が目を覚ましてしまいます。―いや、目を覚ますまい。それにお前が声を出さなければいいのだ。

そ う言い聞かせてそのまま時尾を組み敷き、先程の行為の続きを行う。寛ぎ肌蹴た首筋に唇を這わせ、そのまま指先でなぞりながら再び乳房の膨らみを両手で楽し んでいると、適度な弾力と張り詰めた脂肪の触覚が忘れかけていた妻の味を思い出させてくれる。この「交わる行為」を覚えたての頃は俺の責めに耐えるだけで 精一杯だったものだが、やがては自らも動き快楽美を求めてはいい声で鳴くようになった。そう、一刻も早くお前の堕ちた吐息が聞きたい。そのそそられる体と 声で、俺を逝かせてくれ。

だ・・・めっで・・・す・・・

相変わらず理性から拒もうとする時尾だったが、人差し指で胸の先を弄ってやった途端、たまらず小さな悲鳴をあげた。

ぁっ・・・

勿論これに懲りて動作を止めるようなことはしない。口を塞がずとも女は必死で声を漏らすまいと耐えるであろう。それをいいことに好きなだけこの女の体を愛でる権利が俺にはあるのだから。

「さて、これでも駄目と言えるか?」

意 地悪を言って完全に帯を取り、体の前面を露出させる。息子をきにしながらもようやく俺に一晩付き合う覚悟を決めたらしい時尾をなだめるようにそのぽってり した唇を己のそれで塞ぐ。当初はされるがまま舌の侵入を許した時尾だったが、やがて自分からもちろちろと舌を絡め答える為に俺と唾液を吸いあった。・・・ 頭の後ろにゆっくり回される両手がその証拠。揺り起こされた感情が女の情欲に火を着け、その瞳が俺しか映し出さなくなる時間はもうすぐだ。

―もう少しお前を味わいたい・・・

そ の問いかけに微かに頷いた女を確認すると、唇を離し細く引く糸を名残惜しみながらそのまま女の両足を割った。付け根を見やると当然の如くすでにそこは蜜で 溢れ、かすかに光を反射している。時尾だって長い間体を押し込めていたのだ。溜まった欲望がこうして夫という存在により瞬く間に流れ出すのは己の物だとい う占有欲を改めて満たすには十分である。

縦に走った亀裂の間に沿って舌を入れ、取り分け半ばにある小さな芽を突付くと感じているという証に 時尾は体を振るわせる。これかと確信するとそのまましつこくその突起を吸い上げては舐めあげ始める。たまには顔を離し、溢れすぎる蜜を手で掬ってはその粘 り気の強さを見つめたりなどして遊んだ。時にぴちゃぴちゃと水音を立てて、羞恥心を煽るように。

そうするうちに時尾の方が絶えられなくなっ たらしい。酷く物欲しそうな目でこちらを向くものだから、その妖艶さが溜まらずに、暫く焦らしてやりたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。わかったと いいながら、そのまま密口に中指と人差し指を挿し込むとゆっくり粘膜を犯しながら”音を立てない程度に”動かしてやった。

んっ・・・!

途 端表情が変わる。時尾は”中”の方もなかなか感度がいい。与えられる快感に身をゆだねながら、その反面恥ずかしさと快楽で口を歪め思わず顔を背けようとす るのを無理に阻害し「こっちを見ろ」と容赦なく命令してやるのだ。こうして羞恥と物欲しさでなんとも言えない妻の表情に見とれ、俺は思わず指の動きを早め てしまう。

くちゅっくちゅっつ・・・くちゅ

熱い嘆息と淫らな情交時にしか分泌されない粘液の音が蚊帳の中をただよう。この音 を早めればたちどころに女は果ててしまうに違いないのだが、女だけを満足させてはこちらが不満だ。「こんなに音を立てて目をさますやもしれんぞ?」耳元で 囁いてやるとかすかに止めてと絶え絶えに呟くが、これはお前の”ここ”からでているのだぞと素知らぬ振りで余計に音を立ててやると惨めにも目をうるわせた りする。

―欲しいか?

聞かずとも恨めしそうな瞳でよくわかる。挿れて挿れてと飢えた、その昔見た色既知外の情婦の素振りに そっくりだ。普段のしゃっきりした武家娘とはまるで違った姿に変わってしまうのがまた酷く刺激されるし、そうやって俺の前でだけ都合のいい変化を遂げるの がお前のいいところだと言ったら恐らく怒り出すのだろうが。

お前さま・・・はやく・・・!

女の淫靡な哀願―その願いを今叶え てやる。そうしてようやく女の吸い上げ口に根をあてそのまま奥底まで埋めてやると、それが抜けないように時尾は俺の背中にしっかり手を回してしがみつい た。あいかわらずお前の茎はきつくて熱いなぁと褒めてやりながら、そのまま遠慮なく時尾の中を深く行き来し始める。俺を迎える為に分泌された大量の蜜が絡 み、円滑に動くことが可能だ。奥へ行くほど締め付けが強くなり自分が達しないように絶えるのも一苦労する。ヌチュっとした皮膚と粘液が擦れる音と、その動 作を行うために打ち付けあう股と腰の濡れ布巾のような音が耳の側を横切るが、女を貪ることに夢中な俺にはまるで聞こえていない。こうしてしばらく猥褻な行 為にひたすら耽って、繋がりを保ちつつその結合部を摩擦しあう。女の粘膜を己の武器で抉り、跳ねる肉体を抑えつけると自分の性器から襲いくる震えに時尾は 息を荒げた。柔らかい肉襞が内部に潜みうねる己の硬立した異物を惜しみなく押し包み、深く侵入するほど、抱かれている男から白い欲望を絞ろうときつさを増 した。

深すぎず浅すぎず内壁を攻めると、それに合わせて時尾も腰をやや突く。滾った膨張は刺激を求めひたすら蜜を絡めながら猛るのだ。

そのままぁ・・・っあ・・・ぅ強く・・・!

背 中に回された時尾の両手はいつの間に首へ回され、絶頂を迎える為に俺を捕まえて離さない。淫猥な響きは更にテンポを増し、深い交合を示すものへと変わって いく。ずちゅずちゅずちゅ・・・すでに我を忘れて腕の中で乱れる妻をどこか冷静に眺めつつ、そろそろいい具合だと判断して、今度は自分の為に出し入れを開 始する。女の中心へ、より引き締まった筒の中を獣になりきり乱暴に”犯す”

やぁっ・・・つ!

女はより強い刺激で痙攣し始める。もう、逝く!その睦言を無視し貫き責めて、

途端。

女は全身を硬直させ一際激しく身を震わせ、達した。そして同時に襲いくる強い収縮に分身も耐え切れず、己も膨張させて種を女の中へぶちまけたのだった。

心拍数が上がったままどうにも収まらない。時尾も自分の中に残る余韻から時にビクンと体をひくつかせ当分離れてくれそうにもない。蒸れた水気と体内から吹き出た汗がまるで水をかぶったように皮膚を流れる。ただそれは、二人の熱で熱く滴るものに変化するのだが。

「・・・降りてきます」

胸 に顔を埋めた時尾が残念そうにそう呟く。俺から排出されたものがでてきたらしい。そうやって精液ですらいとおしむ姿は、一人の牝としてのもの。久しぶりに 潤いを与えられて、女は完全に目の前の雄の存在に純粋に嬉々としていた。恐らくもう子供の存在を忘れているに違いない。

我慢しますか ら・・・最後にそう我が子を見ながら囁いて、そのまま自ら唇を求めてきた。こうして今や完全に牝としての本能に順従となった時尾は再び体を開放し疼いたそ こを押し付けだす。少しは寝かせてくれよと嬉しく嘆きながら、俺も惹きつけ合うように妻へとまた身を合わせていった。

Comments are closed.