KYOTO

るろうに剣心の回想編より

返り血を浴びた袴すがたの一群が、通りを歩いている。
だれも近寄ろうとしない。ただ畏怖のまなざしを向けるだけである。

聞こえる声は目下の徒党を忌み嫌うもの。
あぁ・・・せっかくの祭りに・・・
勤皇志士を皆殺しにしたらしいよ
見てよあの姿、恐ろしいったりゃありゃしない
狼みてぇな目つきしやがって
そうだ、ありゃあ壬生の狼だ

ふいに徒党の一人、原田佐之助が一介の聴衆ににじみより胸倉をつかんだ。
「狼狼いいやがって・・・。なんならおめえらこの場で切り殺してやってかまわねぇんだぜ?」
蔑んだ言葉に耐えかねたのだ。
ただでさえ隊士達は投げかけられる声に歯がゆい思いをしているのに、
血の気の早い原田にはそれを抑えることは出来なかった
ひときわざわめく聴衆、それに気づいてか徒党の長新撰組隊長近藤勇がふいに声を張り上げた。
「原田、列に戻れ。皆胸をはって歩くンんだ。」
粛清される新撰組、隊長である近藤の命令は絶対であり、それから発される掛け声は
隊士おのおのの士気を奮い立たせた。

京都大火を阻止した。
しかしこの尊王攘夷の都京都の目にはそれすらも移らないだろう。
だがわれらは新撰組隊士たるもの。
お国徳川幕府のために尊王志士は切るべし。
ましてや民を巻き込んでの計画は阻止すべし。

斎藤一は笑った。
からからとした乾いた笑みには自嘲があった。
「狼か・・・。」
その台詞を聞いたかしらないが、すぐ横を並行して歩く一番隊組長沖田総司も口を開いた。
「狼ですってね。斎藤さんならいざ知らず羊みたいな僕も狼なんですかね?」
楽しげな微笑を浮かべている。
「沖田君、新撰組とはそういうものさ。沖田君だってそとずらだけだろう?」
「そうですかねぇ?」
斎藤の言葉をどう思うのか、相変わらず屈託のない笑みを浮かべている。
この沖田という男ほど血なまぐさいこの新撰組にはつれずれ合わない。

「血の臭いがする」
ふと斎藤はそういった。自分に染み付いた血の匂いではない。
人を切った後だというのに、いまなお非難の矢面に立たされているというのに斎藤はそんなことを言った。
「最近人を切りすぎなんじゃないですか?」
相変わらずの笑顔で応じる沖田。
そんなやり取りを聞きながら、副隊長の土方歳三はまた口もとに笑みを浮かべた。
・・・これだからお前ら(しんせんぐみ)が好きなんだよ。
と。

嗚呼、これから何があろうと勤皇志士は切るべし切るべし。
裏切り内通者は切るべしきるべし。
血で濡れる京都、咲き乱れる桜、そのためには狂人になろうぞ。
この先などは知らぬが、今はただ往く道を信じて

・・・今はただ切るべし。

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