「じゃあお茶しよっか?」
女の言葉で喫茶店へ入る二人組。
「窓際の席をお願い」
「分かりました」
言われるままウェイターは二人組を明るい日の差す窓際へと案内する。
昼間の閑散とした時間帯、多少の希望はまかり通る粋な店。
「何になさいますか?」
「とりあえずコーヒー二つね」
「はい、承りました。」
ひとしきりお決まりの注文を取り付けて、ようやく二人に一息つく時間が訪れた。
LOVE SO GROOVY
向かい合って座ると、ようやく差し込む光の暖かさを肌で感じる。
もうすぐ春よねと思いながら足を組み、ブルマは対面に腰掛けたべジータを見つめた。
そこには下手すればしかめっ面にも見えるような表情で腕を組み目を細めながら窓の外を眺めている男の姿。
「あったかいわね」
「ああ」
あいかわらず視線を外へ向けたままゆっくり相槌を打つべジータはいつもと変わりなく自分ペースだ。
ただ、飽きもせずに私の話に耳を傾けてくれるようになったのはそれがいつしか習慣になったからなのか。
差し込む薄白光の陰影で織り成された男の顔から、以前よりも増した深みを感じるようになったのはきっと気のせいではない。
「・・・そうね、たまには昔の話でもする?」
とりわけこういった類の男が困りそうな話題を選んで振るのが大好きで、今回も予想通りの反応が返ってくることを期待して笑みを浮かべるブルマの言葉に相方の男は期待通り怪訝な顔をする。
「その話はお互いしない約束だろう?」
確かにそうなのだけれど、
こんな天気のよい日だから。
「たまにはいいじゃない?」
そう優しく微笑むこの女の表情にべジータはめっきり弱い。
まいったといった感じで軽く溜息をつくと、投げやりだった視線をブルマへとあわせ、いいだろうと合図を送って寄越す。
周りから見ればまるで年季の入った、まさしく<大人の雰囲気を放つ二人組>そのものだが実際の所、二人の付き合いはまだ10年もたってはいないことを知れば周囲はきっと驚くだろう。
ほどなくしてウェイターが香ばしいブラックコーヒーを置いてゆくとその滑らかな取っ手を手にとり側へ引き寄せ、ブルマは再び話を続けていく。
「そういえばアンタとこうやって出かけることってなかったわね。ヤムチャと付き合ってた時はデートするのが当たり前だったのに・・・不思議ね。」
「なんだ?そんなのにオレと意味も無く外へ出歩きたいのか?くだらんな。」
「なーによ、アンタだって意味も無く修行してるじゃない。これ以上強くなったってアンタに敵うやつなんてもう孫くんくらいしかいないのに・・・」
「・・・ふん。」
お互いに無意味だと考えている要素なんていくらでもある。
だけどきっとその無意味な要素がなければ、今頃二人はここで一緒にお茶してるなんてありえないって断言したっていい。
「いいかた悪くなるけどアンタが地球を侵略しに来なければアタシ達こんな関係になってなかったわよね」
投げかけられた言葉に押し黙ったままべジータは外の風景へと目を戻す。
アイコンタクトが切られたのは怒ったからではない。
ブルマにはそれが分かっている、彼が照れているからだと。
よく周囲の人間に彼女の”同居人”は誰に対しても無愛想だと言われるが、なんてこんなに感情が分かりやすい男なんだろうと思っている女も存在するのだ。
それが自分だとブルマは自負しているからこそ、こんなにも挑発的なことを話せてしまう。
「だいたい初めて会った時、将来自分の女になる人間を殺そうとした男なんてきっとアンタだけよ」
「ふん、そんな男に色仕掛けしてきやがった馬鹿な女は何処のどいつだ」
「きっかけ作ったのは確かにあたしだけど・・・先に”手を出した”のはアンタじゃない。」
・・・まったく私たちは素直じゃない。
どっちが先だなんてとっくに答えは出ているのに、未だこうやって言い合いをしてしまうのはあまりに”答え”が自分にとっては尺に障るから。
子供じみてるとは思っていても、それはべジータもきっと同じ。
ただこれ以上べジータを躍起にさせてからかうのも、ちょっとやりすぎかなと思ったりもして。
「ちょっと耳貸して」
「ん?」
おもむろに顔を近づけあって、ふいに女が告げた言葉は。
「デートに付き合ってくれたお礼」
―chu!
さわやかに切り返して
ブルマは目の前の男にキスをした。
「なっっ!」
「じゃあいきましょv」
思わず顔を赤らめて硬直する男を可愛いと内心思いながら出口へとべジータを引っ張っていくブルマ。
だからアンタと生きるの止められない、この癖、死ぬまで直んないかもと舌を出して呟きながら。
こうして小気味良い興音を残して喫茶店はいつも通りの午後を迎える。
またお待ちしておりますとウェイターが微笑みながら見送っていることも先ほどの不意打ちで男の方はすっかり気付かなかったりするが。
本当だったらこういうことは男がするもんよ!
ふっ、ふざけるな!!こんな下品なことなんざオレは絶対にやらん!
大体こんな公衆の面前でお前はつつしみという言葉をしらんのか!
キスくらいいいじゃない。愛情表現は大事よ。
うるさい!オレにそんなもんは必要ないといってるだろうが!
あっ、そうよね~。そんなものなくたってアンタにべたぼれな女がここにいるもんね~
おっ、お前が勝手に!
あら?それが子供作っといて言う夫の台詞かしら?
・・・