たらいに浸したすいかを見つめながら、俺は屯所の外から聞こえる祭囃子に耳を手向けていた。
「ったく、江戸が恋しくならぁ。こんな音色きいてちゃぁよ。」
一人でそうやって黄昏てると、周りの連中はなぜだか集まってきてそれをゆるさない。
今日も予想通り都合よく廊下をひょっこりと歩いてきた総司の奴が俺を見つけて声を掛けてきやがった。
「あら永倉さん、すいか冷やしてるんですか?」
そういって右隣にちょこなんと腰掛けて否応にも話し掛けてくる。
「お祭りですね~。永倉さんは行かないんですか?」
にっこりと笑って覗き込むように問う総司。
こうなるともうコイツは俺から暫く離れない。
「あぁ?そりゃいきてーけどよ、どうも祭りっていったら御輿担いで騒ぐってのが
江戸っ子ってもんだろ?吉原かなんかの花魁だのが煙管吹かしたりして客引きしたり
餓鬼どもに金魚掬ってやったり・・・そういう派手さがこの京都には無くてよ。
どうも祭りって気分にはなれねぇんだ。」
「・・・ほら、好きと惚れたはなんたらとかぬかしてる女よりもよ、浮気症だけど
しゃきしゃきして貪欲にアッチを欲しがる江戸の女の方がおれぁ好きだね。
いつなんどき江戸へ戻るか知らんが、こう祭囃子聞いてると無性に懐かしくなってなぁ・・・。」
しみじみ語って聞かせていると総司は苦笑してぽそりとこぼした。
「確かに・・・僕は女のことなどわかりませんが、力強さがありますからねぇ。」
「祭りといったら喧嘩だろ?」
「いや、花火でしょう?」
二つの声に振り向いてみれば、浴衣に身を包んだ原田と一糸乱れなく立っている斎藤の姿があった。
「おいおいお前らだけで仲良しこよしすんな。俺も混ぜろ!」
原田はそう大声で頭をこずいて俺の左にどっかりと腰をおろしてあぐらをかき、
斎藤はそのまま立って見下ろす姿勢をとる。
「あ、お二方もいらしたんですか?」
そう総司が尋ねると斎藤は相変わらずなにもしゃべらず、
原田からは浴衣を親指で指してこれから俺を誘っていこうかとしていたと
思案していたのだという答えが返ってきた。
しかし遠くから俺がどうも柄に無くしんみりしてたもんだから、てっきり恋の病にでも
かかっちまったんじゃねぇかと、原田は冗談まじりに続けた。
「ま、三社祭を懐かしむ気持ちは俺も大賛成だけどよ、祭りといやぁ女よりも喧嘩に
一票いれておくんな。」
そう言い放っていきなり俺の首を締め上げる。
「ほらこうやってよ、このまんま腹に蹴りをくれてやって・・・」
「おいっ!!原田てめーーーっっっ!!」
そうやって俺らは小競り合いに突入してる間に、総司は後ろを振りかえって斎藤なんかに話し掛ける。
「斎藤さんは花火といいましたがその所存はいかに?」
わざと坊主の問答形式で問うと
「いや、華やかさと儚さを兼ね備えたわびさびの風物だからですな。
祭りの喧騒も花火が美しくなければ後味が悪いというものでしょう?」
と微笑んで奴は答えた。
もっともらしい核心をついた答えだが・・・
絞められながら俺はたてつく。
「・・・いや、御輿と女だ」
「いんや喧嘩が江戸の華ってもんだろ?」
と原田。
「僕はりんご飴だと思いますけど?」
「・・・花火だろう。」
お互い譲らない、いや譲れない思わぬ展開となった祭り談義。
こうも性格が濃い連中がそろっちゃ
話がまとまらんだろうが!!
それぞれさわやかな笑みを浮かべるも、それは誰一人自分こそは正しいと
信じてやまないゆえのこと。
馬鹿みたいに押し問答を繰り返してるうちに。
やっと膠着状態が解けた。
正直あまりいい解決方法ではなかったが。
「今日の見回り当番は何番隊だかわかってんだろうなぁ?えっ?」
恐ろしくえらい不機嫌な副長の声が響いたかと思うと、俺の頭をムンズと掴みそのまま床へと転がした。
「・・・祭りだとかぬかしてる暇があったらさっさと見回りいってこい・・・。」
チッ。
めんどくせーところで出てきやがって・・・えらそーに立ち回りやがって!
どつきたくなる気持ちを抑えてあいよと立ち上がり、その場をお開きにした。
せっかくもっと熱い俺の祭りと江戸の女談義をとくと聞かせてやろうとしてたのに・・・!
ついでに総司にもいろいろ教えてやろうと思ったんだが。
・・・あいつウブだしからかうとおもしれーからよ。
祭囃子が遠くなり、隊務というな名の緊張にまた再び引き込まれていく。
そう、それはまるで祭りへと出向く子供らみたいに・・・
「ついでに歳は祭りといやぁなんだ?」
「・・・日野の宵祭りかな。」
「・・・確かにソレだな。」
「永倉と違って余り三社祭だのには縁遠いからなぁ。」
「女転がして好きなように犯せるのが魅力的だよな。」
「文句もいわれないですし。」
「・・・。」
「・・・。」
「あいつらの前で祭り談義するのはよしとこう。」
「そうですな。」