「くるか?」
声。
自分へと落とされた影の主を見上げて、思わず眩しい逆光に目を細める。
それでも彼が延ばした手だけは、やたら現実味を帯びて見えた。
心許した訳じゃない。
まして安心したわけでもない。
ただ、彼の強い目は信じてもいいような気がしただけ。
なにかに取り付かれたような町、かつてこんな風に自分を見てくれた人間などいなかったから。
そうして意を決して差し延べられた手を掴む。
割合小さな身体にしては逞しい腕があっさりオレを掬い上げ、何日かぶりに自らの脚で地を踏み締めた。
と、その瞬間、
オレは、―おぼろげないつぞやの太陽の温かさを思い出した気がした。
師匠(センセイ)
自分の過去を語る気はしない。
記憶にないといえば半分は本当で、また半分は嘘だ。
ジンさんに会うまでの年月は薄汚れていて、親兄弟の存在すら思い出す価値を感じられないし、思い出したところで今の自分とは掛け離れ過ぎていて実感が湧かないのだ。
勿論その感覚は冷めているのかも知れない。
だが自分にとっての記憶か鮮明になったのは紛れも無くジンさんが現れた時だった。
どんな気まぐれにしろ、手を掴んでここまで引き揚げてくれた。
それだけが自分を支え、確固足る自我を確立できた理由だといえば言い過ぎになるのかもしれないが。
始めは着いて行く事すら必死で、ようやく着いて行けるようになればまた速度を上げてどんどん先へ進んでしまう。
だが、離されて食いつきながらそれでも遅い俺を時に立ち止まっては待っていてくれた。
見ていて歯痒かったかもしれない。
ようやく同じ身分になれたと思っても、近付けたこそ見せ付けられる力の差に打ちのめされ、そして新たに憧れとひそかな闘争心を抱かせられるジンさんという師匠(せんせい)の存在。
だから、最後の試練をすべてクリアできた時はうれしかった。
まだ遥か上の人だけれど、雲の上の存在ではなくなったジンさんの姿。
いつか本当の意味で、また近くに居続けたい。
師匠が独り立ちの別れにくれた、やかましくもなにより心強い相棒と共に、必ず。
どぅるるるる・・・ボンッ
やぁ相棒!元気かい?
なんだい、せっかく俺を出せるようになったってのにシケタ面しやがって、まぁ仲良くやろうぜ。
・・・
これからは俺が師匠のかわりだぜ!
ありがたいだろう、ひゃははははは!
うるさいのはなんとかならないんですか?ジンさん。
いいじゃねえか。これからは一人の時も楽しく過ごせるだろ。
なによりどんな時でもつえー威力がだせるんだからな。
それに元はといやぁお前のイメージが作ったもんなんだぜ?
・・・”ピエロ”のアイデアはジンさんじゃないっすか。
はぁ、だからオメーは何にもわかっちゃいねーってんだ。
つーわけで、ピエロにした訳がわかるまでお前メシ当番な!
ええっっっ!
反論あるならたっぷり聞いてやるぜ~?お前の体に、よ?
・・・いや、なんでもないです。