巡る木々、跳ねる土埃
片腕だけを残して己の武器を振るう
目は相対者の動きを追跡し、耳は音を聞き行動を予測する
すべての五感を開き、一切の感情など捨てて
滅多に味わえない自らの荒い息遣いを、まるで人事のように感じながら
また地面を蹴った。
―相手がいかに格上であれ、戦わなきゃならねぇ時は自分が最強だって思って戦え。
一瞬でも敵との差を感じまったら、その段階で勝てる1%の確立も消えちまう
想定外のモノ。
正しくは想定外以上のモノが出現した段階で、己の先は見えている。
だがその確実に迫り来る結果を目の当たりにしたところでどうするか?
歴然とした差もハンデも腕の痛みを全て忘れて
戦いを謳歌する事・・・
それが遺された路ならば。
何も感じなかった。
無意識下では消すことが出来ない恐怖は汗と共に流れ
止められないほどの昂ぶりが湧き上がっては
悲しい能力者の性を思い知らされた。
鈍い打撃音と空気を劈く爪の音が髪を攫っては何度も通り過ぎていく
浅く皮膚を剥ぐ度に生ぬるい感触が指に纏わり
だがしかし、その行為が無意味であることを薄々六感で認識しながら。
その刹那、ガードの甘い側に相対者の手が掛かったのを知った。
―間に合わない。
そして肉を抉られる感覚が、
全身を廻ると。
重力が消え、
己の頭が胴体から切断された事に気付いた
不思議なほど痛みは無く、感覚がクリアになって
悲しい程、嫌に成る程、
清々しかった。
世界が廻る。
空が、森が、地面が、空気が、
異常にキレイに見えて、
―あぁ、死ぬんだ・・・
それだけは理解できた。
やたらゆっくりと景色が落ちていき、
色を失い、断片が落ちていくように
最後は全て暗闇に飲まれ
男の意識はそこで途切れた。
引き離された胴体は力を失い、血飛沫だけが空しく舞う。
側に残された異形はようやく「力試し」が満足に出来たことを悟り男の切断した頭部を拾い上げた。
だが「力試し」の疲れからかどさりと座り込むと、人で無いその異形は気味が悪いほどの恍惚とした笑みを浮かべて
・・・もっぱらそれは純粋が故に止まらない笑いだから性質が悪いのだが
最後に空を見上げて呟いた。
「僕ってちょっと強いかもv」
残された躯、やがては異形の趣味により”再利用”されることになるのだが・・・
それはまた別の話になる。