today is…(ベジータ×ブルマ)

おかしい。
そんな違和感を感じたのはある寒い日の事。
普段となんら変わり無いはずなのだが、なにかがひっかかる。
早朝軽くトレーニングをし飯を食った直後、あのブルマの父親とやらに捕まり
エアースクーターのメンテナンス に付き合わされたのはまぁいい。
遅れて再び重力室でトレーニングに励もうとするが、
妙に真面目なトランクスの態度がどうもしっくりいかない。
「トランクス」
なんとなくふいに声を掛けてはみたが、「何、パパ?」という平常とはなんら変わらない
キョトンとした返事が返って来たに過ぎなかった。
「…いや、なんでもない。」
たった一回キリの会話でこれ以上話したところでなんの解決にも得られないと踏むと、
罰の悪さを消す為にただもくもくと元の作業に戻ってしまった。
それを不思議そうに眺めていやがるトランクスだったが、あえて無視して励んでいる振りをしていると
そのうちこっちを伺うのも飽きたのか自分のトレーニングに夢中になっていった。

今日はどうもおかしい。
昼のトレーニングを終えた時点で周りがどうもおぼつかない気がする。
いつもと何も変わらんはずなのに。
一体どうしたというんだ、この浮ついた気分は?
一日の時間が進んでいくにつれそれは苛立ちにも似た焦燥感に変わっていくのが気に触る。
蹴りが空を切り規則正しい音を立て続けていたのが、
いつの間にテンポにぶれが生じた不協和音に侵食されていくのが自分でもよく分かる。
平常心という無我の境地とやらも感じ取った微妙な違和感には勝てないらしい。
くそったれ、と最後に拳を突くとかすかなしこりを残したいまま重力室を後にした。

「ママは?」
「あらトランクスちゃん。ブルマさんはお仕事で出掛けたわ。」
「ふーん。」
「ママが恋しくなったの?」
「違うよ!もう子供じゃないんだから俺は!そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「パパが変なんだ。」
ようやく告げられた言葉にしばらく考え込んだような祖母だったが、すぐに笑って軽快な唇を開いた。
「ベジータちゃんも男だからよv」と。
そんなまるで噛み合わない会話に内心唖然とするトランクスだったが、
あながちそれは間違っていない事を知るののは彼が思春期になってからのことである。

そんな二人の会話から一時間後-

「ただいまー」
のんきなブルマの声が聞こえると、重力室にいたベジータはふと動きを止めた。
普段ブルマが出先から帰宅しても耳にも止めずに身体を鍛え続けるベジータだったが、
無意識の内にブルマの存在に不本意ながら反応してしまったという現実を突きつけられ
どうやら一連の違和感はブルマから匂って来ているのだと否応なく悟った。
原因は定かではないが直接聞くに越したことはあるまいと思い立つと、
このままではトレーニングに身に入らないと判断し切り上げてブルマの側へ行くことにした。

部屋を出て数分、キッチンに入るとブルマが食事をつついていた。
俺が入っていくと物珍しそうにこっちを見遣り一言、
あんたまだ食事してなかったの?とあっさり抜かしやがった。
「もう済ませた。」
ぶすっとして答えてやるとブルマは納得した口調でそうよねと大げさに頷いてみせる。
「あんたっていつも7時きっかりにお腹すくからね、珍しく食べてないのかと思ってびっくりしちゃったじゃない。」
何年経っても変わらない口の悪い言動も今やすんなり受け止められるようになり
あっさりした笑みを浮かべながら温めたシチューを食べるブルマを暫くは見つめていたが、
結局今日一日感じていた違和感はなんだったのかを知るべく意をを決して尋ねることにした。
「ブルマ。」
呼び掛けて直ぐさま目が合い、何故だか気恥ずかしくなる気持ちにどうも何かが違うと感じる。
俺から言うのはおかしいのではないか?
第六感がそう伝える。
しかし聞かなければわからないのであれば…
「旨いか?」
「え、おいしいけど…?」
・・・ついてでた言葉は我ながら検討外れだった。
―くそっ、そんなことがききたいんじゃねぇ!
地段だ踏むもどかしさに情けなくなるが、案の定的外れな答えが戻って来る。
全くこっちが何を考えているのかまるで読まない無神経な女めと歯噛みしたくなったが、流石にそれを言葉にするのも憚る。
とその前に、大体「憚る」となんでこっちが気後れしなければならんのだ?と一瞬自分に突っ込みたくもなったが。
「食べたいんだったら回りくどく聞かないで食べればいいじゃない。へんなの。」
訝しげな表情はまるで昼間のトランクスと一緒だ。
流石親子だなと馬鹿な納得をしてしまった矢先、それまで大人しかったブルマがふいに服をまさぐり始めた。
さっきから間抜けなことしかいえん俺に呆れて追い出すつもりか?と思いきや、
「もうシチュー残ってないのよね。だからコレ。」
と苦笑して胸ポケットからちっぽけな小箱を取り出しやがった。
流されるまま小箱を開けると、なんのことはない、豆粒ほどのホイポイカプセルが一つ入っていただけだった。
なんのつもりだこれは?と視線を投げかけると、いいからあけてみてと頬杖を付いてこっちをちらちら試すように注視しやがる。
相手の思うまま行動する羽目になるのは気に食わないが、
ブルマの促すまま俺は意を決してそれを床に投げ付けてやった。

ボムッ!

音がして煙が消えた先にあったものは―

<ありがとう。愛してる。ブルマより>
そう書かれた巨大なケーキが目の前に・・・
思わず振り返りブルマを見る。
そしてようやく、
今日一日感じていた胸の遣えが溶けたことに気付いた。

「甘過ぎないようにチーズケーキにしてみたの。渡すの遅くなってごめん。」
照れ臭そうに笑って見透かしたようについてでる台詞が、酷くその、
ムズムズしやがる。
全く、なんて本当に釈に障る女だ。
バレンタインとか抜かす下らん日に乗りやがって・・・!

「…ふん、俺の食欲を舐めるなよ。これで足りると思ってるのかブルマ?」
「あら、あんた甘いの脳天にくるっていってなかったっけ?」
「しらん。食えるものならなんでも食う。」
「あ、そ。それじゃもし足りなかったら…私を食べて我慢してv」
「っ!!」

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