緊張感が高まる。
初めてのハンター試験、言われるがまま申し込んだはいいが。
またまだ半人前どころか井の中の蛙だった人間には、一人でその”中”に交じるのはキツイものがあった。
一流が集まるハンター試験、無事にたどり着けた連中のみが集うことを許されたこの第一次試験会場は...。
ぴりぴり殺気が伝わり嫌でも神経がささくれ立つ。
穏便な表情をしている人間は少なく、いつもジンさんと一緒にいる環境とは全く違うのだということを痛感する。
早くこの敵意の漂う空間から抜け出したくて大きく息を吐き出すと、目の前に一人の男が立っていることに気付いた。
「お前さん新顔だね。」
小肥りだが人の良さそうな表情を浮かべるその男に視線を合わせると、ようやくぴりぴりした隙間をかいくぐれた事に気付き思わず帽子のつばを軽くのし上げた。
「えぇ、よく分かりますね。」
苦笑してそう答えると男は「なあに」と呟き片手を差し出した。
「俺はトンパってもんだ。もう25回以上テスト受けてるからすぐ分かるんだ。」
「俺はカイトっていいます。こちらこそ。」
反射的にこっちも手を差し出し握手を交わした。
内心では25回も落ちてしまう程試験は難しいのかと気を引き締められる思いに駈られながらトンパのテンポよい口調に耳を傾ける。
「見ての通りなかなか凄い奴らが集まってるだろ?ベテランとしてちょっくら教えてやるよ。」
そういうと周りを見回し一人一人どんな面子なのか親切にも教えてくれた。
素直にありがたいと思った。
暫く話し込む内にトンパは懐を探り「おっとそうだ。」とジュースを取り出す。
「のど渇いたろ?お近づきのしるしだ。飲みなよ。」
なにかと思えばわざわざ気を使ってくれるとは・・・。
やや表紙抜けしながらも場違いな親切に苦笑して
「いや、そこまで気を使ってもらわなくても」
と、慌てて断ろうとするが同じテスト仲間なんだからと押し切られてしまった。
「わかりました。じゃあいただきます。」
ようやく受け取ってジュースの蓋を開けるとトンパはうれしかったのか「お互い の合格を祝って乾杯だ。」とグラスを軽くうちつけ一気に飲み干した。
気後れしながらもジュースに口付け、そのまま一口流し込もうとして・・・。
「・・・。」
「どうした?」
怪訝な顔を浮かべない用に内心必死になりながら、ただ「なんでもないです。美味しいと思って、」と答えると相手は「ならよかった。お互い頑張ろうな!」と手を振り上げて人混みへと交じっていった。
それを見送った途端、
「ゲホッ・・・」
思わず飲みかけたジュースを吹き出し咳込んだ。
「・・・まずい。」
口を押さえて一旦人込みから離れると、トンパがいない事を確認し持っていた残りのジュースを地面へと零した。
そう、トンパには悪いと思い無理に含んだはいいが、正直な所とても飲めたもんではない。
まずいというのも失礼だし...。
なんとか一連の動作をごまかせてほっとするカイトだったが、結局このトンパという男が”新人潰し”とまであだ名される男だったということに最後まで気付かなかったのはいうまでもない。
後日談
「ハンター試験って、合格するつもりもない人が受けてることもあるんだね。」
「そうなのか?今まで気がつかなかった・・・。」
「・・・」(キルア内心唖然)