トリック②◇

2.

「ここか…。」

そこは西の都の繁華街である
ロックセンターストリートのほぼ真ん中に位置する、
いかにも高そうな洋服屋だった。

そう、この通りは高級ブランド店がひしめくエリアで、ベジータもブルマの付き添いで何度かきた事があった。

店に入るたび、店員がジロジロ見るので少し苦手だったが、
今日はそんな事も言ってられない。

自動ドアが開き、ふさふさした赤い絨毯の上をズンズンと進んだ。
広い店内を見回すが、
シックなデザインのジャケットやらワンピースやらがぶら下がったハンガーがずらりと並ぶ、何の変哲もないブティックだった。
客は少なく、店員らしき人間が数人、その相手をしている。

ベジータは再びカードに目をやるが、
指示に従うといっても、誰がその指示を出してくれるのかが書かれていない。
再び舌打ちし、思わずカードを握りつぶしたその時だった。

「ベジータ様でいらっしゃいますね。」

足音も無く登場したのは、
真っ黒のスーツに黄色のネクタイを締めた穏やかな顔の紳士だった。

ベジータは黙ってその男の顔を見て言った。

「貴様、何か知ってるのか?」

男はにっこりと笑うと、

「ええ、こちらへどうぞ。」

そう言って店の奥にある階段へ促がした。

ベジータは言われるままにらせん状になった短い階段を昇ると、
そこには少し広い試着室がいくつか並んでいた。

男はその中の一つに入ると、一着のタキシードを手に戻ってきた。

「先ず、こちらをお召しくださいませ。」

…は?

ベジータは訳がわからずその場に固まった。

「…おい、一体何のマネだ?」

「いえ、私はある方からベジータさまがいらっしゃいましたら、こちらをお着せするよう申し付けられておりますので。」

「だから、何で俺がこんなもん着なくちゃいけないのかと聞いている。」

「その辺の詳しい事情は存じ上げておりません。私はただ、ベジータ様がいらっしゃいましたら…」

「もういい、それより、貴様は何者だ?」

「私はこの店の従業員でございます。」

「さっき言ってたある方とは一体何者だ?」

「私は存じ上げておりません。」

表情一つ変えず、事務的に話すこの男に、
これ以上の事をたずねても無駄だろう。

とにかく先へ進むしか方法はないらしい。
こんな窮屈なものを着るのは物凄く嫌だが。

ベジータは本日2度目の舌打ちをかましつつ、
試着室に入った。

少し手間取りつつ、タイをとめ、
試着室を出ると、そこにはもう先ほどの男の姿は無かった。

その代わり、目の前に備え付けられていた椅子の上に、
新たな一枚のカードが乗せられていた。

…今度は一体なんだよ。

服の不自由さにイライラしながら、乱暴に封をあけ、
中をみると…

『ベルガリ宝石店へ行き、指示に従ってください』

その店は確か。

ここから3件先にある西の都一の高級宝石店だ。

ベジータははぁ、と一つため息をつきながら、
カードをポケットの中に入れ、店を後にした。

「俺に選べと?」

「はい。」

「俺そんなキーワードで分かるかよ。」

「いえ、でも一つ選んで頂かないと困りますので。」

「貴様が困ろうが俺には関係ない」

「しかしですね・・・」

「だったらテメエが考えろ!!」

「おお、お客様!!どうかお怒りを静めて…。」

朝食抜きのせいですっかり頭に血が上りやすくなっていたベジータは、
この滅茶苦茶な犯人の要求に苛立っていた。

店に入るなり、差し出された3つの指輪。
この中に正解は一つ。
キーワードは

「11月15日」

ベジータは頭をひねりつつ、その日の事を思い出そうとしたが、
いかんせん1ヶ月以上も昔の話だ。

再び3つの指輪に目をやる。
普通の感覚の持ち主に言わせれば、全く違うデザインでそれぞれ特徴的なのだが、ベジータにとってはなんら変わりばえもないただの指輪にしか見えない。

ふと、左の指輪に目をとめる。

かすかによぎった、記憶。
、ここを通りかかるたび、ショーウィンドウの前で立ち止まるブルマの姿…。その目線の先にあったのは…。

…だんだん話が見えてきたような気がするな。
ベジータはニタリと笑いつつ、左の指輪を指差した。

小さなケースに収められ丁寧に包装された指輪を受け取ると
その袋の中にはやはり白いカードが納められていた。

『店を出て、目の前に止まっているジェットフライヤーに乗ってください。』

…ゴールは近いな。
直感的に思った。

NEXT?・・・YES

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