2.
「ここか…。」
そこは西の都の繁華街である
ロックセンターストリートのほぼ真ん中に位置する、
いかにも高そうな洋服屋だった。
そう、この通りは高級ブランド店がひしめくエリアで、ベジータもブルマの付き添いで何度かきた事があった。
店に入るたび、店員がジロジロ見るので少し苦手だったが、
今日はそんな事も言ってられない。
自動ドアが開き、ふさふさした赤い絨毯の上をズンズンと進んだ。
広い店内を見回すが、
シックなデザインのジャケットやらワンピースやらがぶら下がったハンガーがずらりと並ぶ、何の変哲もないブティックだった。
客は少なく、店員らしき人間が数人、その相手をしている。
ベジータは再びカードに目をやるが、
指示に従うといっても、誰がその指示を出してくれるのかが書かれていない。
再び舌打ちし、思わずカードを握りつぶしたその時だった。
「ベジータ様でいらっしゃいますね。」
足音も無く登場したのは、
真っ黒のスーツに黄色のネクタイを締めた穏やかな顔の紳士だった。
ベジータは黙ってその男の顔を見て言った。
「貴様、何か知ってるのか?」
男はにっこりと笑うと、
「ええ、こちらへどうぞ。」
そう言って店の奥にある階段へ促がした。
ベジータは言われるままにらせん状になった短い階段を昇ると、
そこには少し広い試着室がいくつか並んでいた。
男はその中の一つに入ると、一着のタキシードを手に戻ってきた。
「先ず、こちらをお召しくださいませ。」
…は?
ベジータは訳がわからずその場に固まった。
「…おい、一体何のマネだ?」
「いえ、私はある方からベジータさまがいらっしゃいましたら、こちらをお着せするよう申し付けられておりますので。」
「だから、何で俺がこんなもん着なくちゃいけないのかと聞いている。」
「その辺の詳しい事情は存じ上げておりません。私はただ、ベジータ様がいらっしゃいましたら…」
「もういい、それより、貴様は何者だ?」
「私はこの店の従業員でございます。」
「さっき言ってたある方とは一体何者だ?」
「私は存じ上げておりません。」
表情一つ変えず、事務的に話すこの男に、
これ以上の事をたずねても無駄だろう。
とにかく先へ進むしか方法はないらしい。
こんな窮屈なものを着るのは物凄く嫌だが。
ベジータは本日2度目の舌打ちをかましつつ、
試着室に入った。
少し手間取りつつ、タイをとめ、
試着室を出ると、そこにはもう先ほどの男の姿は無かった。
その代わり、目の前に備え付けられていた椅子の上に、
新たな一枚のカードが乗せられていた。
…今度は一体なんだよ。
服の不自由さにイライラしながら、乱暴に封をあけ、
中をみると…
『ベルガリ宝石店へ行き、指示に従ってください』
その店は確か。
ここから3件先にある西の都一の高級宝石店だ。
ベジータははぁ、と一つため息をつきながら、
カードをポケットの中に入れ、店を後にした。
「俺に選べと?」
「はい。」
「俺そんなキーワードで分かるかよ。」
「いえ、でも一つ選んで頂かないと困りますので。」
「貴様が困ろうが俺には関係ない」
「しかしですね・・・」
「だったらテメエが考えろ!!」
「おお、お客様!!どうかお怒りを静めて…。」
朝食抜きのせいですっかり頭に血が上りやすくなっていたベジータは、
この滅茶苦茶な犯人の要求に苛立っていた。
店に入るなり、差し出された3つの指輪。
この中に正解は一つ。
キーワードは
「11月15日」
ベジータは頭をひねりつつ、その日の事を思い出そうとしたが、
いかんせん1ヶ月以上も昔の話だ。
再び3つの指輪に目をやる。
普通の感覚の持ち主に言わせれば、全く違うデザインでそれぞれ特徴的なのだが、ベジータにとってはなんら変わりばえもないただの指輪にしか見えない。
ふと、左の指輪に目をとめる。
かすかによぎった、記憶。
、ここを通りかかるたび、ショーウィンドウの前で立ち止まるブルマの姿…。その目線の先にあったのは…。
…だんだん話が見えてきたような気がするな。
ベジータはニタリと笑いつつ、左の指輪を指差した。
小さなケースに収められ丁寧に包装された指輪を受け取ると
その袋の中にはやはり白いカードが納められていた。
『店を出て、目の前に止まっているジェットフライヤーに乗ってください。』
…ゴールは近いな。
直感的に思った。
NEXT?・・・YES