トリック③◇

3.

すっかり居眠りをしていたベジータは、運転ロボットの呼び声にふと目を覚ました。

「…ついたか。」

ここで終わりだといいのだが。
既にベジータの空腹値は限界を超えている。

地上に降りると同時に脚が雪で埋まった。
そこは見覚えのない光景だった。
あたりには閑散とした自然が広がっていて、
目の前にそびえる、こじんまりとしたホテルのような建物の光があるのみだ。

「ここに入ればいいのか?」

ベジータは運転ロボットに話し掛けてみたが、
このロボットは口が利けないらしい。
彼は黙ったまま、新たな封筒を差し出してきた。

”建物の中に入り、廊下を真っ直ぐ進んだ突き当りの部屋に入ってください。そして、決して怒らないでください。”

まったく…
ベジータは半ば呆れながら、素直に建物の中に入っていった。

静まり返った玄関ホールはどこかレトロな雰囲気が漂う。
アールヌーボーを思わせる円形の天井には、
細かい細工の入ったシャンデリアがぶら下がり、
壁には上品な絵画が飾られている。

随分珍しい建物だと思いつつ、
ベジータは書かれていた通りに廊下を進んでいった。

目の前に現れたのは大きな扉だった。
いまどき珍しい手動開閉の木のドアだ。

かすかに感じる人の気配。
やっと終わりに辿り着いたようだ。

ベジータは少し間を置いた後、
ゆっくりとドアを引いた。

しかし、中は真っ暗で、何も見えない。
ベジータは構わず中に進んでいった。

その瞬間、ドアがバタンと閉まる音がしたと同時にパッと明かりが灯る。
目の前に現れたのは。
豪華なテーブルセットだった。
綺麗に並べられた見事な料理。

コツリ

コツリ

そして、後から響いてくる足音。

ベジータはくっと喉を鳴らすと、
後を振り返らずに手にもっていたカードを床に落とした。

「…随分と手の込んだ演出だったな。」

「あら、ぜんぜん驚いてないようね。残念。」

思ったとおり、聞き覚えのある声。

「さて、なぜこんなマネをしたのか、理由を聞かせてもらおうか。…ブルマ?」
くるりと振り返った先には、
マリンブルーのイブニングドレスをまとった彼の妻の姿があった。
その様子は、どう見ても誘拐されて監禁されている者の状態ではない。

「だって、こうでもしないとアンタは動いてくれないでしょ。」

ブルマはにっこりと笑いながら
近づいてくる。

「そんな事も無いと思うがな。」

ベジータは半分呆れ顔でその腕を取ると、
自分の方へと引き寄せた。

「つまりはこういうことだな。お前は俺とかしこまった食事がしたかっただけなんだな。」

「うーん、ちょっと違うわね。正確には『今年くらいロマンティックなクリスマスが過ごしたかった』かな。」

「なるほど。くだらねえな。」

「ちょっと!そういうこと言わないでよ。」

「それより、お前の気を感じなかったが、それはどういう訳だ?」

「ああ、それね。これよ。」

そう言ってブルマはその手に嵌められたリストバンドを指差した。

「ちょっと行方をくらましたい時便利かなってつくってみたの。」

「お前、もうちょっとまともな事に脳みそを使えないのか?」

「うっさいわね!たまには女心を察しなさいよ!」

「こんなくだらないことに付き合ってんだ。それだけで充分だろ。」

「まあアンタにしちゃ上出来ね。」

「口のへらねぇ女だぜ。…ああ、腹減った。これ食っていいだろ。」

疑問が解決したベジータは、ブルマの腕を突き戻し、
早速食事に取り掛かろうとするが、即座に再び腕をつかまれる。

「駄目!!まだ1個、確認すべき事が残ってます。」

「なんだよ。俺は腹減ってんだ。」

「指輪。」

「ああ、これだろ。」

ブルマは差し出された包みを丁寧に取り去り、一息ついてケースを開けた。
ベジータもその様子を横目で見守る。

「そう、これよ。よく分かったわね」

ブルマは満足そうな笑みを浮かべて仏頂面の夫を見た。

「記憶力は良いほうなんでな。」

少し得意げに言ったベジータは、
貸してみろ、とその指輪を奪い取ると、

「これくらいすれば満足か?」

といいながら、その指輪をブルマの細い薬指にはめた。

「上出来。」

ブルマは満面の笑顔で、そのままベジータに抱きついた。

そんなこんなで、やっとの思いで食事にありつく事が出来たベジータは、
デザートよvvと案内された2Fに用意された大きなダブルベッドにて、
お預け食らった代償に日頃の約3倍のご奉仕を満喫したのだった。

NEXT?・・・YES

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