乱痴気がくり広げられる島原。
腰帯をひっぺがそうとするものや、女のまたぐらに手を突っ込もうとするものがいる。
男と女の汚い欲求が一致して、毎夜狂乱の宴を繰り広げていく。
芹沢さんは、お梅とともに殺されました。
山南さんは、明け里さんを身請けせずに切腹しました。
殺したのは私です。
愛の形はなんにせよ、
幸せな二人を殺したことには間違いありません。
言っておきますが今更後悔なんてしませんし、局長命令ですから斬ったまでのことです。
それでもこの目の前の騒ぎを見ていると、
無性に腹が立って仕方ないのです。
宴の中で
原田さんは腹を出して切腹後を誇らしそうに見せびらかして腹踊り。
永倉さんは女二人に酌をさせ、横にはまたもう一人女を抱え込んで。
近藤さんはとっくに女を連れてどこぞの間へ行ってしまったし、
斎藤君は開き直ったかの様に酒を一人浴びせ飲んでいる。
それでいいのですか?
別にいいのでしょう。
自分の中で自問自答を繰り返しても答えは見つからない。
迷わずに、ただ局長副長の言うことを忠実に再現すればいいのですと
理解はしていても、結局いまだ幼稚な私は大人になりきれず、
誰にも立ち入ることを許さない鉄壁の笑顔で
人を遮断しているに過ぎないのです。
喀血。
肺病。
こうやってじわじわと死んでいけば、
死者の魂は弔われますか?
人知れずの恋だったのに、新撰組だからと縁を絶たれました。
当たり前ですよね?
そうやって笑って会話を終わらせた僕は、
今でも局長副長を恨んでいます。
可笑しいですか?
そうやって恨んでる人に従ってるかって。
それがね、全然僕にとっては当たり前のことなのですよ。
僕はそれだけ可愛がられてるんです。
きっと僕の「幸せ」を願っての行動なんでしょう。
だから僕は二人を責めることはしません。
むしろ感謝すべきなのでしょうね。
士道不覚悟。
あなた方は、女の愛に狂って心を惑わされたから死んだのです。
こちらにいる人のように、女を道具や物とも思わなければ
死なずにすむのです。
その昔、副長はいいました。
女なんか武士には邪魔以外何者でもないと。
そうです。
邪魔なんです。
人を好きになることはとても美しいことだけれど、
新撰組という武士にとっては、身を滅ぼす以外なにものでもない
邪魔物に成り下がるのです。
「・・・何を考えている。」
「いいえ、面白いなぁと思っているだけです。」
「それにしては酒の減りがおそいな?」
「気のせいですよ。」
ほんとうに、貴方こそ何を考えているのです?
斎藤さん。
「貴方はそうやって酒を飲めて幸せそうですね。」
笑ってそういったら、貴方はなんと言ったと思う?
「それは皮肉」かって。
・・・ええ、皮肉ですよ。
そうやって殻に閉じこもって身を守る卑怯な貴方へのね。
うまく自分の性格を利用して周りを欺き、
自らを傷つけることなくいなすのが何よりうまい貴方。
「あなたは私よりも年上なのに、酒もろくに美味しく飲めないのですか。」
呆れて言う。
当たり前だ。
「とにかく美味くやることです、今はね・・・。」
それが出来ないから辛いのです。
貴方は今の現状をどう考えているのです?
楽しく過ごしているのですか。
いやで堪らないのですか。
それすらも超越しているような貴方の様相はすでに・・・
「あなたこそいつもどんな連中からも好かれているではないか。
私がうらやましくなるくらいに。」
酒をかっ喰らいながら
僕に軽蔑の眼差しを向ける貴方。
・・・そうか。
そして僕は気付いた。
貴方からみれば、
僕はすでになんでも手に入れているではないかと
いいたいのですね?
ということに。
そのままふつと視線を僕から離す貴方。
僕はなんだか可笑しいような気がして思わず笑った。
愛だとか士道とか、そんなものはいつでも手に入る、
そういいたいのでしょう?貴方は。
・・・そういつしか美味くやって
貴方は、
そのすべてを手に入れるに違いない。
でもね、僕はどうなんでしょうか?
僕の未来には、死という道しか残されていないのです。
時間のある貴方はそうやって生きていけばいいでしょうけど、
僕には今という時間しか残っていないのですよ?
それでも貴方は僕に、
そういうことを言い放つのですね?
先が見えないのならば、
せめて今の現状を精一杯生きましょう。
そう僕を騙すつもりですか?
残念ですが、僕は貴方が思うより弱い人間なんです。
貴方みたいにぬけぬけとした顔で・・・
「ならばさっさと死ねばよい。生きるのがいやならばな。」
周り一面に響くようなどすの聞いた声が部屋を一巡する。
思わず騒いでいた連中が波打ったように静まり返った。
「おい・・・?齋藤?おめぇ何言ってんだ?」
永倉さんが怒ったように振り返り、原田さんも顔をこわばらせて僕らを見ている。
「さっさと死ねと言ったまでですよ。」
平然と言い放つ齋藤君。
そういうが早いか、永倉さんは齋藤君へ掴みかかっていった。
きゃーーーー!
やめろお前らっ!
止めんじゃねぇオメ―らよぉ・・・!!
そして何も言わずに殴られる齋藤。
とその時、「喧嘩が御法度だってしってんのか」という声が聞こえて
奥に言ってしまった局長がでてきた。
・・・こうしてこの場は収まったけれど。
険悪な空気だけが僕の周りに流れて、酷く嫌な気分になってしまった。
一人言葉を反芻する。
「さっさと死ねばいい・・・。」
確かにこうやって追い詰められるように死が近づいてくると、
すぐにでも苦しまずに死にたいと思う。
でも剣を握って敵と対峙した時はどうか?
・・・あいにく怖がりな僕は、それでも死にたくないから敵を殺す。
矛盾してませんか?
これって。
つまり、
これが僕の答なんですね?
・・・齋藤さん
今を必死で生きるつもりはない。
ただいつでも死にたくないという弱い心をも認めて
日々生きていくのが僕のこれからの生き方だと。
人を愛そうが愛しまいが、士道を貫こうが貫くまいが
すべてはなにも関係なかったのです。
引き裂かれた恋も、軍中御法度で人を殺したのもすべて、
本当は還元できたはずなんです。
それをあえてしなかった僕は、
弱い人間だと、
自覚してこれからは
生きていけばいいんですね?
いつもさっさ死にたいと思いながら
それでも身近な死を恐れて、
僕は貴方と過ごしましょう。
だからせめて貴方には、
そうやって僕を存えさせたことに
いつか後悔させてやりたい。
これが僕に、まっとうな死に方を教えてしまった貴方への
僕なりの、
けじめのつけ方。